「在日バイタルチェック」福岡公演の呼びかけ人である、金敏寛弁護士が朝鮮学校に対する無償化差別を闘う「九州朝高生就学支援金差別国家賠償請求事件」の結審にあたり弁護団を代表して意見を述べました。
「朝鮮学校、こんなものは学校ではない」、「朝鮮半島帰って」、「スパイの子どもやないか」、「朝鮮学校を日本から叩き出せ」、「北朝鮮に帰ってくださいよ」、「キムチくさい」、「約束というものは人間同士がするものなんですよ。人間と朝鮮人では約束は成立しません」などの朝鮮学校に通う子ども達に向けられた心ない言葉を紹介する時、金弁護士は、言葉に出すことができず、悔しさのあまり涙を流しました。法廷中が泣きました。
金弁護士の意見陳述全文を掲載します。ぜひご一読ください。
第1 はじめに
1 2013年12月19日付で提訴し、2014年3月20日に第1回期日を迎えた本件訴訟は、4年6ヶ月に及ぶ審理を経て、本日、第20回目の期日をもって、結審を迎えようとしています。
私は、原告ら68名の訴訟代理人弁護士として、また、原告らが通った九州朝鮮高級学校の卒業生として、結審するにあたって、最後に意見を述べさせていただきます。
2 本件訴訟は、2010年4月に開始した高校無償化制度から、全国10校の朝鮮高校だけが排除されたことに対して、北九州市八幡西区折尾にある九州朝鮮高校に通う、または卒業した学生らが原告となり、国を被告として、一人あたり11万円の損害賠償を求めて、国家賠償請求訴訟を提訴したものです。
第2 朝鮮高校だけが無償化制度から排除されたのは政治外交目的であること
1 原告らは、決して訴訟提起を望んでいたわけではありません。本来であれば、司法に訴えなくても、当然に朝鮮高校が対象となるべきだと考えていました。
無償化法制定前後において、朝鮮高校が制度の対象として議論が進んでいたかと思いきや、当時野党であった自民党の排除派の反対運動によって指定が先延ばしにされるなど、常に、そのときどきの政治情勢に左右されてきました。
2 結局のところ、排除派の急先鋒にいた下村議員が第二次安倍政権発足後、文部科学大臣に就任するやいなや、朝鮮高校については朝鮮総聯の影響が及んでいる、また、拉致問題の進展がないから、朝鮮高校の指定には国民の理解が得られない、だから不指定処分にする。そのために、野党時代から訴え続けてきたように、朝鮮高校の指定の根拠となる規則ハ号を削除することにすると決めました。そして、今後、朝鮮共和国との国交が回復すれば、朝鮮高校も制度の対象となり得るなどと発表し、2013年2月20日、下村文部科学大臣は、予定通り、規則ハ号を削除したことを理由として、全国10高の朝鮮高校に対して、不指定処分を通知するに至りました。
3 これは何も、原告らの思い込みや、原告らが作り上げた事実ではありません。
下村文部科学大臣は、堂々と、「拉致問題」、「朝鮮総聯」、「朝鮮共和国」などの政治外交的理由に基づき、日本国民の理解が得られないから、朝鮮高校を不指定処分にすると、明確に表明したのです。
下村文部科学大臣の発言は争いのない事実です。規則ハ号を削除した理由だけでなく、朝鮮高校だけを不指定処分としたことも、政治外交的理由によるものであることは明らかです。逆に、政治外交目的ではないという理由をどこから探し出せば良いのでしょうか。
4 原告ら訴訟代理人は、本件無償化訴訟に関して、様々な人たちと話を重ねてきましたが、誰一人として、規則ハ号を削除したことや、朝鮮高校だけが不指定処分となったことについて、政治的な理由ではないと異論を唱える者はいませんでした。これまでの客観的事実からは当然のことです。
5 被告自身、規則ハ号を削除したことが、政治外交的な理由であることを認識しているはずです。だからこそ、被告は、本件訴訟において、下村文部科学大臣の問題発言を伏せるかのように、朝鮮高校だけが不指定処分となったのは、本件規程13条に適合すると認めるに至らなかったという後付けの理由を繰り返し主張せざるを得ないのです。
第3 朝鮮学校について
1 原告らは、被告による政治外交目的での朝鮮学校差別を明らかにすべく、本件訴訟において、朝鮮学校がどのような歴史的経緯を経て設立されたのか、また、設立後、無償化制度から除外されるまでの間、一貫して、被告から差別政策を受け続けてきたことを繰り返し主張してきました。
無償化制度開始後の2016年3月29日に、朝鮮学校が存在する北海道ほか1都2府24県の知事に対して、文部科学大臣は、朝鮮共和国や朝鮮総聯が影響を及ぼしているという政治的理由によって、朝鮮学校に支給している補助金を見直すよう通知しました。このことからも被告による差別政策の一貫性は、明らかです。この見直し通知を受けた知事らのうち、朝鮮学校に対する補助金を停止した都道府県は少なくありません。
2 このように、朝鮮学校は、常に被告による対朝鮮共和国、対朝鮮総聯の政治外交的ターゲットとされてきたのです。朝鮮共和国や朝鮮総聯に対する圧力をかけるための最たる手段が、朝鮮学校に対する差別政策なのです。
しかしながら、このような手段が許されてはならないはずです。なぜならば、そこには、3歳にも満たない園児がいるだけでなく、高校生はもちろんのこと、小学校や中学校に通う子どもたちがいるからです。被告は朝鮮学校に通う子どもたちを人質にして、朝鮮共和国や朝鮮総聯に対して圧力をかけるのです。
3 2018年6月28日、被告は、朝鮮共和国を訪問した神戸朝鮮高校の生徒らのお土産を没収しました。没収に泣き叫ぶ女子生徒や、悔しさのあまり抗議する男子生徒らの様子は地獄絵図のようだったといいます。
ところが、被告は、2018年9月12日、没収したお土産を生徒に返還したようです。そこには、朝鮮共和国の反発を踏まえ、日朝対話を意識する被告側が配慮したとの見方があるようです。この一件にしても、まさに、朝鮮学校に通う子どもらに対する嫌がらせをもって、政治外交をリードしようとする動きが透けて見えます。
4 被告による朝鮮学校に対する嫌がらせは、在特会をはじめとする民間人にもその影響を及ぼしています。
2009年12月4日、授業中の京都朝鮮初級学校の門前に在特会が集まり、拡声器を用いて、「朝鮮学校、こんなものは学校ではない」、「朝鮮半島帰って」、「スパイの子どもやないか」、「朝鮮学校を日本から叩き出せ」、「北朝鮮に帰ってくださいよ」、「キムチくさい」、「約束というものは人間同士がするものなんですよ。人間と朝鮮人では約束は成立しません」等の言葉を1時間に渡って浴びせ続けるという事件が起きました。在特会やその他の民間人による、朝鮮学校に対するヘイトスピーチや嫌がらせは、今もなお継続しています。このような事件が起きるのも、被告による朝鮮学校に対する差別政策がお墨付きを与えているからに他なりません。
第3 朝鮮学校に通った原告ら、朝鮮学校に通う子どもの思い
1 被告のみならず、被告の政策に影響を受けて朝鮮学校の存在に反対する心ない人らの差別を受けながらも、朝鮮学校に通った原告らだけでなく、そこに通う学生らは、差別や嫌がらせに反対して立ち向かうことはあっても、決して、日本社会を嫌ったり、日本人の子どもたちを差別し嫌がらせするようなことをしません。
2 朝鮮学校に通う子どもたちは、これからの日本社会を担っていく重要な人材です。彼ら彼女らは、そのことを十分自覚しているからこそ、無償化除外のような不当な差別をなくそうと、自ら立ち上がり、これに立ち向かっていくのです。
決して、自分の利益のためではありません。本件訴訟の原告となった者は、提訴当時、在日朝鮮人に対するヘイトスピーチがはびこり、自らの個人情報を隠した上でなければ身の安全が保障されない中、また、本件訴訟の原告となることにより、社会に出た後、いかなる逆風にさらされるか分からない中、原告となることを決意しました。
自身が原告となって不当な差別と戦うことこそが、日本社会のこれからを良くしていくことだと気付いているからです。
3 被告は、就学支援金をもらいたければ朝鮮学校ではなく日本学校に通えばいい、朝鮮学校も日本学校になれば就学支援金を支給してあげるなどと主張する始末です。被告の主張のどこに、これからの日本社会のためになる要素があるというのでしょうか。
4 原告らの通う、通った朝鮮学校は、自分が何者であるかを教えてくれるとともに、これから先、日本社会がどのようになるべきかのヒントを与えてくれる大切な場所です。朝鮮学校を卒業した私も、日本の司法を担う一弁護士として、日々業務に励んでいます。また、朝鮮学校を卒業した者の中には、裁判官として裁判に携わる者もいます。
司法界にかぎらず、あらゆる分野に朝鮮学校を卒業した人たちがいます。その者らは皆、日本社会をだめにしようなどと考えておらず、日本の未来を考えているはずです。
第4 裁判所には公平な視点から本件の判断を仰ぎたい
1 このような朝鮮学校を直接見るだけでなく、朝鮮学校に通う子どもたちがどのように生活しているのか、これを知らなければ本件訴訟の争点について判断することはできません。そのように考えて我々は検証を申し出ましたが、裁判所はこれを採用しませんでした。
2 そのため、九州朝鮮高校の様子やそこに通う学生らの様子を記録したDVDを証拠として提出しています。
裁判所におかれては、本件訴訟の判決を検討するにあたって、今一度、当該DVDを見ていただき、原告らの通った九州朝鮮高校が、「高等学校の課程に類する課程」を有する学校であり、そこに通った原告らもまた、日本における他の高校生と変わらない青年であることを知ってください。
3 また、原告らには、60人を超える弁護士が代理人となっていることも見過ごさないでください。弁護士としてではなく、一人の日本人として、被告の差別政策の残酷さに耐えかねて、それを正すことこそ、外国人と日本人が共生できる社会へと繋がるという思いから、代理人として手を挙げてくれました。
4 9月27日には大阪高裁判決が、10月30日には東京高裁判決が出ます。
大阪地裁で朝鮮高校が勝訴していることから、大阪高裁においては国の控訴が棄却されるでしょうし、規則ハ号と本件規程13条の矛盾する理由について最もな指摘をするとともに、本件規程13条に関して、訴訟提起後に国側が提出した証拠については採用しなかった東京高裁においても、やはり朝鮮高校の勝訴が期待されます。
5 本来、この無償化問題は訴訟するまでもなく、当然に朝鮮高校にも適用されるはずでした。このような訴えをすること自体がおかしいと思いますが、裁判所におかれては、被告による差別政策によって作り上げられた「朝鮮共和国」や「朝鮮総聯」などの偏見にとらわれず、日本社会で生まれ育った原告らの学ぶ権利が本当に侵害されていないのか、朝鮮高校は無償化制度から当然に除外されるのかを公平な視点から判断していただきたいと切に願いながら、私の意見陳述とさせていただきます。